2019.06.11

“囚人リク” 瀬口忍先生
レジェンドインタビュー

最凶刑務所脱獄記を圧倒的画力で描いた週チャンの兄貴!!瀬口忍先生、登場!!
ファミリー以外はクソファッキン!!

わるもん描くの、すごい苦手やったんです

瀬口先生は1970年生まれ、大阪府出身。やはり大阪出身のマンガ家、王欣太先生のもとで長らくアシスタントをつとめていたが、あるとき、王先生より新刊の単行本のおまけページにマンガを描いてみては、とすすめられ、「いまでは考えられないですけど、マンガの中に携帯電話のアドレスも書いて」、それを見た編集者から連絡を受け、月刊誌でデビューする。
「その担当編集者の方が、何年後かにチャンピオンの編集部に転職されて、そのときに、ぼくのところにも声をかけてくださったんです」
そして、その編集者とのタッグで「13歳の少年が脱獄不可能な刑務所に送られる」という破天荒な設定のマンガ『囚人リク』が誕生することになるのだが──、
「『囚人リク』が形になるまでには結局、一年近くかかりましたね、そのあいだに月刊誌の連載を終わりにして、『囚人リク』一本にしぼってやっていたんですけど、なかなかネームもできへんし。収入もないですから、編集部から前借りしたりね。当時はもう30代後半になってて。だから、まあ、わりかしギリギリでした(笑)。
そやけど、それしか生きる道はないと思ってました。アカンかったらどうすんのかな、とか考えることもなかったですね」

そして2011年11号、『囚人リク』の連載がスタートする。はじめての週刊連載ということもあり、すべてが手探り状態だったという瀬口先生が、はっきりと手応えをつかんだのが、単行本2巻に収録されているラグビー対決のシーンだったという。
「試合の最中でレノマが刑務官の谷村にしばかれるシーンがあって、そこで、それを描いているときのことがすごい印象に残っています。
ぼくね、わるもん描くの、すごい苦手やったんですよ。たとえば「コワモテなんだけど、お茶目」とか「わるもんだけど、こっけい」とか、どうしてもそういう方向に逃げてしまう。レノマもね、最初の案では松尾(=リクと同部屋の囚人、スキンヘッドと傷跡がトレードマーク)みたいなゴリラ顔やったんです。それが、あるとき担当さんから突然、『瀬口さん、レノマのデザイン、あれちゃいますわ。レノマは男前でいきましょう』言われて。つまり、顔もめちゃめちゃ男前だし、身体も美しいし、しかも徹底的に悪いキャラクターで行こうということですよ。もう真っ向勝負。逃げ場がない。リクなんか、いちばん最初の打ち合わせでデザイン決まったくらいですけど、レノマはなかなか描けなかった。
だから、とにかく悪いやつっていう部分から踏み外さないよう、ここまではちゃんと描けてるなって毎回自問自答しながら1巻を描いて、やっとなんとなく自分の中で固まってきたときに、2巻で、その悪役がさらに悪いやつに虐げられるシーンが出てきた。格好良く描くだけで四苦八苦してたのに、そいつの苦悶を描かなあかんわけです。でもね、実際に原稿用紙を前にした瞬間、ぼくの中でものすごく大きなワクワク感があったんですね。『ああ、キャラクターを描くのっておもしろい!』って。
キャラクターがどんな表情をしたかなんて、ストーリーの大きな流れには関係ないです。だけど、そういうところにこそ、そのキャラクターの個性が見えてくる、おいしいところが潜んでるんやとその瞬間にわかったんですね。その回で、はじめて読者アンケートの一等賞をとれたんですけど、それを聞いたときは、『伝わった!』と思いましたね。
夜中にね、原稿作業やってたら、担当さんから電話かかってきたんですよ。珍しいこともあるもんだと電話に出たらね、酒飲んでるんですよ。どないしたんですか?言うたら、『やりましたよ! 一等賞取りましたよ!』。あのときはふたりでガッツポーズしましたよ。ただね、その号は『バキ』が休載やったんですね(笑)」

瀬口忍●せぐち しのぶ

大阪府出身、滋賀県在住。
大阪芸術大学を卒業後、王欣太先生のもとで『蒼天航路』のアシスタントを10年間続けた。2011年から連載を開始した『囚人リク』は全38巻におよぶヒット作に。外伝『ボスレノマ』の単行本(全2巻)も今年発売された。

キャラクターを描く覚悟をぼくに突きつけられた

取材中、終始おだやかな口調だった瀬口先生の声が、一瞬だけ大きくなった瞬間があった。それは「屈指の人気キャラクターである椿陽平を、なぜ殺してしまったんですか?」という質問をしたときのことだった。
「殺したんじゃないんですよ! ……いや、結果的にぼくが殺したことになるんですけど。あのね、どうしようもないんですよ。ぼくも死んでほしくないです。誰よりも死んでほしくないキャラですよ、椿は。でもね、あのギリギリの切羽詰まった状況(※脱獄成功寸前で刑務官の内海に発見され、全員が窮地に追い込まれるクライマックスシーン)で、『おれが行く』と完全武装の内海の前に捨て身で立ちふさがっていったのは、どうしようもなく椿なんですよ。描いてるぼくが、お前やめとけ、行ったらあかん言うても、椿は『お前は自分の都合でそう言ってるんじゃないのか』とぼくに眼で言ってくるわけですよ。たまたま、いったんはうまいこと逃げられそうになるんですが、今度は内海が、そうはさせないという眼をするわけです。そうなると、もうぼくにも止められない」

そして、内海によって深々と腹部をえぐられた椿は、救出に来たレノマの背中で息を引き取る
「あざとい見方すると、椿は人気キャラクターだし、ここで死なさんと、『リク、戻ってきたぞ! さあ全員で脱出だ!』としたほうがよかったのかもしれませんけど、やっぱり、椿がそうさせてはくれなかったです。
椿がね、腹から血を吹き出しながら、『お前はありのままを描くのか、それとも都合よく、実は浅い傷でしたとギミックを描くのか』と涼やかな眼でぼくを見るんですね、その眼にはあらがえなかった。ちょっとオカルトチックな話なんですけどね(笑)。
レノマからは、キャラクターに命を吹き込むという、マンガ家にしか味わえない感覚を教えてもらった。このうえない喜びを与えてもらいました。それと相対して、椿からは、キャラクターを描く覚悟をぼくに突きつけられた。キャラクターを描くっていうのは、お前そういうことなんやぞ、と椿や内海が教えてくれた。そういった意味では椿にも内海にも感謝しています。読者の人からはね、お前が描かなかったらええだけのことやんけと、怒られそうですけどね(笑)」

縁があったんやな

最後に、チャンピオン五十周年への記念コメントをいただいた。
「四つ上の兄貴が野球好きで、『ドカベン』を読んでたんですよ。それで、ぼくも読んでて。『らんぽう』『マカロニほうれん荘』『手っちゃん』『ブラック商会変奇郎』『魔太郎がくる!』……、うちにあったマンガの単行本がほとんどがチャンピオンでしたから、いまの状況が感慨深いですね。今回の五十周年のメインビジュアルでも、リクを魔太郎のとなりに置いていただいてね。兄貴とも話しましたよ。『縁があったんやなー』って。
思い返すとチャンピオンに囲まれてて育ってきて、そのチャンピオンの中に仲間入りさせてもらったということは、本当にありがたいことだと思っています。いまは連載お休みしてますけど、この五十周年記念イヤーのうちに必ず帰ってきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします」