2019.10.17

“バキ道” 板垣恵介先生
レジェンドインタビュー

発行部数7500万部超えという途方もない金字塔を打ち立てた伝説級格闘マンガ「バキ」シリーズ。
今もその右手で闘う男たちを描き続けている豪腕・板垣恵介先生が、満を持しての登場!!

34歳の板垣恵介が未熟だということを
教えますよ(笑)

28年前に描かれた『グラップラー刃牙』の第1話をリメイクしたいと言い出した板垣恵介先生。それは刃牙風に表現するなら〝34歳の板垣先生VS62歳の板垣先生〟という事になる。その思いをうかがった。
「この先どんなものを描きたいですかって聞かれて、描きたいと言えば第一話をもう一度描き直したいと。古い自分の作品はウィークポイントがたくさんわかってしまうんだ。今のオレならもっと面白くできる。でも、未熟だけど勢いや若さがあるから楽な相手ではないと思ってるよ。ちょっと身が引き締まる感じがある。負けられない。技術もチームの力も何倍も違うはずなので、その強みを全部生かしていくつもり。
ストーリーは変えず同じネタで作るわけだから、間違いなく読者は見比べるよね。同じネタで描くとしたら、今ならもっと丁寧に、アイデアを漏らすことなく大切に進めていくと思う。でもそれで勢いを失ったって感じる読者も出てくるだろうから、そういう読者を黙らせるクオリティにしなきゃなって思ってるよ。」

『グラップラー刃牙』の第1話は実は刃牙の活躍がほとんど描かれておらず、食事をするシーンしか見せ場が無い。愚地独歩の方が強烈な印象を残す。
「師匠の小池一夫塾頭に習ったやり方なんだよね。いきなり主人公を活躍させちゃダメなんだって。当時はこれこそが百点なんだって思って描いた。ここから「革命」が起こると思いながら。
独歩には漫画史上に残る試し割りを見せてやるって思ってて、あの土菅砕き(笑)。破壊して出てくるって怪獣のキャラクターの立て方だよね。今見るとコマが小さくてもったいないのよ。他の作家さんが描いたマンガを見ていてコマの小ささが気になる事はないし、読者も小さいからと言ってコマを読み飛ばす事がないのも分かってるんだけど、自分が作る立場になると何か臆病になっちゃって、見逃してほしくないと思うと大きいコマで描いちゃう。新人の頃はまだそこまで考えてないんだよ。
34歳の板垣恵介が間違ってたのか正しかったのか。活きがいいのは間違いないけど、彼には未熟だということを教えますよ(笑)。」

一発で「うわ、面白い」って
ならないとダメじゃない?

そもそも『グラップラー刃牙』の連載の話は、別の雑誌で『メイキャッパー』連載中にかかってきた一本の電話からスタートしている。
「ある日秋田書店の樋口さん(現・秋田書店社長)から会いたいって電話があって、行ったら『刃牙』の最初の担当になる沢さんと二人で来てたんだよ。それで『チャンピオン』で『メイキャッパー』描いてくれって言われて、移籍は出来ないし、全く描く気がなかったから、実は格闘技が描きたいんだって話をしたのね。そうしたら「格闘技ですか……?」ってキョトンとしていた(笑)。
刃牙とか独歩とか、主要キャラクター何人かのスケッチを見せて、人知れない場所で17歳の少年刃牙がチャンピオンとして君臨していて、何をやってもいいというルールの下、次々に強敵が現れるっていう格闘技を描きたいんだって説明したよ。ずっと温めてた話だったしね。
その時、実はジャイアント馬場はそこでは大変な強豪で、運動能力もスピードもあって、飛び後ろ回し蹴りさえもできる、普段は実力を隠しているけど実は実は最大の強敵っていうアイデアを話したんだよ。それに沢さんが「おおっ!」っていい反応をしたのを覚えてるよ。
そうしたら、まずは1話読み切りを描いて、反響が良ければ短期集中連載、それで人気が出たら連載という手順を説明されて、俺はイヤだって言ったんだ。もしやらせてくれるなら、いきなり新連載からやらせてほしいってはっきり言ったんだ(笑)。当然二人は一度編集部に持って帰りますって別れたんだけど、樋口さんがぼそっと「これは相当な期待度だな」って言ったのを聞いていたんで、熱意が伝わったのは間違いなかったと思うよ。普通の新人とは違うなって。それで次の日くらいかな? 連載決定しましたって連絡もらった。」

板垣恵介●いたがき けいすけ

高校時代には少林寺拳法を学び、20歳のときに陸上自衛隊に入隊。さらに陸自の精鋭部隊、第1空挺団に約5年間所属した。1987年、小池一夫主催の「劇画村塾」に入塾し、1991年に「週刊少年チャンピオン」にて『グラップラー刃牙』の連載を開始。現在はそのシリーズ最新作『バキ道』を連載中である。

相当な自信で臨んだ『グラップラー刃牙』新連載だが、第1話のネームでは苦心したという。
「第1話のネームを沢さんに出したら、まずまずの出来って受け取ったみたいなんだけど、顔を見て失敗したってわかった。「ここがもう少しこうだったら」みたいな言い方を二つ三つされて、もう描き直す事に決めたんだよね。一発で「うわ、面白い」ってならないとダメなんだよ。学園から話を始めてたけど、間違ってた。一番面白いと思うところから描こうと考え直して、何話か後に描く予定だった決勝戦のところからいきなりスタートさせよう、それこそが第1話に相応しいって。通ったネームを自分からボツにする新人作家なんて沢さんも初めてだったらしいよ(笑)。
それで出来たネームは、もう見せる前に通るって思った。こっちの方が全然面白い。「今回は絶対大丈夫だから」って沢さんに渡したら、リアクションで面白がってるのがわかった。沢さんはその時の第1話のネームを取っておいているらしいんだけど、恥ずかしいから盗み出して埋めたいよ(笑)。」

新連載から表紙と巻頭カラーという期待の大きい扱いだった『グラップラー刃牙』だが、実は人気が出るのに時間がかかったという。
「第1話は確か人気アンケートで10位くらいだったと思うよ。ダントツ1位だと思ってたからショックで、こんなものなのかって。やっぱり絵の個性が強過ぎるっていうのが周りの反応だった。自分では見やすい絵だろうと思ってたんだけど、読者からみるとアクが強すぎたみたいだね。
当時のトップは立原あゆみさんの『本気!』。負けるわけないって思ってたけど、強敵だった。
しばらくは10位前後をウロウロしてて、こんなはずじゃないのになって思ってたよ。
その頃、沢さんが『となりの格闘王』ってK-1のマンガの企画を立ててて、そっち描かない?って聞かれたの覚えてる。まだ地下闘技場にも行ってなかったから、これからが面白くなるんで『刃牙』やめないよって。そのあたりで単行本の第1巻が出て、それが売れたんだ。ほら見ろ、売れるって言ったじゃんって鼻息荒くなったよ(笑)。第3巻でいよいよ地下闘技場に話が移行していったあたりからはアンケートも上がってたんじゃないかな。もう1位取った時の事とか覚えてないね。順位には興味なくなってた。」

そこからの『刃牙』の25年以上の爆進は読者のよく知るところだろう。その原点となる第1話が50周年記念で特別にリメイクされるなんて、『週チャン』読者にとってはご褒美のような企画だ!

現役ってそういうことでしょう

最後にチャンピオン50周年へのメッセージをいただいた。
「小学校時代に『週刊少年チャンピオン』って週刊誌が生まれたんだなとぼんやり思ったのを覚えてるよ。
キックボクサーの沢村忠が表紙のヤツ。その雑誌が50年も経ち、半分以上に自分が関わっているって事に驚いてます。ショックと言っていいかな(笑)。そんなに関わっていたって現実を思うたびにドキっとする。
自分を讃えてあげたい。
これからも『週刊少年チャンピオン』に関わっていこうと思うけど、それは読者が決定することじゃない?
ベテランとか貢献度で載り続けるっていうのは嫌なんで、ちゃんと売り上げに貢献して関わりたい。
現役ってそういうことでしょう。」